「『飢え』の状態が体にとって良い効果をもたらす」とは、もしかするとイメージしにくい方もおられるかもしれませんが、一定の“飢餓状態”を作ることで体の調子を整えることが出来ると言われています。
例えるなら、機械製品でいうところの「オーバーホール」にあたるものが一般に「ファスティング」とも呼ばれる断食。そして「ファスティング」によって体にもたらされるものに「オートファジー」があります。
そこで今回は、元プロボクサーである私が、現役時代の自らの減量体験から実感できた「ファスティング(断食)」の効果と「オートファジー」についてお話しします。医療行為として認められつつある「ファスティング」
読者の方には既に、「ファスティング」について詳しい方も少なくないかもしれませんが、復習を兼ねてしばしお付き合いいただければと思います。
ファスティングとは?
ファスティングとは「断食」や「絶食」を意味する英語「fasting」のこと。
これまでは、一定期間、全ての食物、あるいは特定の食物の摂取を断つ、一種の「宗教的行為」と見なされてきた面もありましたが、現在では「断食療法」とも呼ばれ、医療行為、民間療法としての認知が広まりつつあります。
船瀬俊介さんの著書『3日食べなきゃ7割治る』などにもある通り、ファスティングが体の調子を整える効果については、次第に認められてきているのです。
その効果とは「断食をすることで人間が本来持つ自然治癒能力や生存本能が呼び覚まされ、体の調子が良くなる」というもの。
船瀬俊介さんの著書では、「野生動物は病気になると、食べずにじっとして回復を待つ」と記されています。つまり、“空腹で、体を休めている状態が最も免疫力が高まる”ということを動物たちは本能的に知っているのです。
実際の減量体験からわかった、ファスティングのメリット
冒頭でも書いた通り、もともと私はプロボクサーでした。ボクサーといえば、ストイックな減量を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
そして、私のボクサー時代の減量の実体験【平常時体重66kgのところを約1ヶ月でフェザー級リミット57.15kgまで減量】が、ファスティングのメリットを語るのに役に立つと思います。この体験を通じて実感できた、断食や減量のメリットと考えられるものをさっそく、順に挙げていきましょう。
- メリット①腸内環境が改善される
胃腸が休まることで胃腸の調子が整い、不調の改善につながります。最近、認知されつつある『腸活』=『腸内環境』を良くする効果が期待できます。
- メリット②エネルギーを消化以外に使えるようになる
1日3食分の食べ物の消化にはフルマラソン並みの体力を使うと言われますが、そのエネルギー(成人の場合2500~3000kcal)を仕事や勉強などに使えるようになります。
この効果を知ってか、「1日1食」を実践する芸能人や著名人(タレントのタモリさんや大相撲の横綱である白鵬関、等)も増えてきており、美容に気を使うタレントさんや体が資本のスポーツ選手もまた「1日1食」を取り入れているということは、やはり、ファスティング(断食)には体に一定の健康効果があると考えてよいのではないのでしょうか。
- メリット③体の様々な機能(能力)が向上する
「飢餓状態」こそが「人間が本気になる瞬間」だと私は考えています。
かつて行っていたボクシングの減量では、集中力がアップしたり、五感や反射神経が鋭くなる感覚を私は体験しました。
「減量なんかしたら、フラフラになって試合どころではないのではないか」と考える方もいるとは思いますが、減量することで実は、余計な脂肪やタンパク質を削ぎ落とし、【最高の心身状態】を作りあげて試合に臨むことが出来るのです。
そして、これがボクシングの魅力のひとつであり、観客を魅了する要素のひとつでもあると私は考えているのです。
ファスティングによってもたらされる「オートファジー」とは?
オートファジーは細胞がその内部に持っているタンパク質を分解するための仕組みのひとつで、「自食(じしょく)」とも呼ばれます。細胞内へのタンパク質の異常な蓄積を防ぎ、病原微生物の排除を行って、生体本来の健康な状態の維持に関与していると言われています。
すなわち自分の体内の古くなったたんぱく質を食べるように分解し、新しいアミノ酸を生成する作用のことで、寒さを感じたり、飢餓状態になったりすると、このオートファジーが起きるのです。
そう、まるで、人体が【逆境に負けない力】を持っているかのように。
ノーベル賞受賞の研究者も認める「オートファジー」の健康効果
意識的に飢餓状態を作りだす「ファスティング(断食)」にもオートファジーの作用が期待できます。2016年にノーベル生理学、医学賞を受賞した東京工業大学の栄誉教授・大隅良典氏は、オートファジーについて研究。大隅教授は、オートファジーで不要になった古いタンパク質から新しいタンパク質を作られる細胞内のリサイクルの仕組みについて調べました。
その結果、人間は1日平均200~300gのタンパク質が必要ですが、食事から得られるタンパク質は70~80g程度。この不足分(120〜210g)はオートファジーで補っていることや、オートファジーが、がんや糖尿病、パーキンソン病など、さまざまな病気の抑制と関連があることを明らかになりました。
ファスティング(断食)にともなうオートファジーで得られる効果
それでは、一般にオートファジーにはどのような健康上の効果があると言われているのでしょうか。
- 効果①エイジングケア
オートファジーにより、体内のたんぱく質が新しく生まれ変わります。細胞の再生が促され、古くなったタンパク質から新しいタンパク質がつくられます。
また空腹時には、「サーチュイン遺伝子」という、「若返り遺伝子」とも呼ばれる遺伝子が活発になることも知られています。
つまりファスティングには、オートファジーとサーチュイン遺伝子の相乗作用による、高いアンチエイジング効果が期待出来るのです。
- 効果②体の不調、不具合箇所の改善
オートファジーでは、細胞内の古くなったタンパク質や不要になったゴミのようなものから新しいタンパク質が作られると言われています。
まさに廃棄物から新しいものを生成する【リサイクル】です。
野生動物は、病気になると、何も食べずにじっとして体力の回復を待ちます。本能で、空腹時に「自己治癒力」が高まることを知っています。
オートファジーは、細菌や異常なタンパク質の分解を行って新しいタンパク質を作り出し、神経疾患やがん、感染症を抑制する機能と関連していると言われており、その結果、デトックスや不調の改善に繋がります。
注意したいのは、常に空腹なら良いということではないという点です。オートファジーによる栄養飢餓状態の回避はあくまでも一時的なものであり、飢餓状態が長く続き、体内の古くなったタンパク質が無くなってしまうとオートファジーは停止してしまいます。
そのため、長期的な断食の実施には、医師、専門家の指導が必須です。
そして私個人の意見では、週1回程度「胃腸を休める」日を設けることが健康を保つ秘訣、ファスティング(断食)の適切なあり方だと考えます。
オートファジー等、自己治癒力を高めるためのポイント
また、むやみやたらにファスティング(断食)をすれば、オートファジーが起こるわけではないことも覚えておいてください。
オートファジーを起こりやすくするためのコツ(ポイント)を以下にまとめてみました。
- ポイント①空腹状態を一定期間保ちましょう
空腹を保つことで、オートファジーの作用が働くようになります。
- ポイント②寒さや痛み等の適度なストレスは良いものと心得ましょう
飢餓をはじめとする、体にとっての逆境状態が細胞を目覚めさせることがあります。
『ポコポコ体操骨たたき体操 100歳でもジャンプができる!』には、骨をポコポコと叩くことで、骨が強くなると書かれています。自分の体を叩くなど、刺激を与えることが健康につながる場合があるのです。
生命力や自己治癒力など、人間には驚くほど凄い能力が備わっています。【人間は体の中に百人の名医を持つ】という、というギリシアの医師、ヒポクラテスの名言が残っているほどです。
- ポイント③添加物等で内臓(特に腎臓)に負担をかけ過ぎないようにしよう
ファスティング(断食)や減量は、内臓を休ませて体の不調を改善するものです。内臓への負担が少ない状態で仕事や勉強を行えば、集中力や持続力をアップさせることが出来ます。
その効果を最大限にするため、消化や分解に通常以上のエネルギーを必要として、内臓(特に腎臓)に負担をかける食品添加物の摂取は避けるようにしましょう。
食事制限は程々に行えば良い
常に空腹では力が出ないこともあります。また、逆に常に満腹では、消化にエネルギーを取られて本来の力を出しきれません。
その意味で、昔から良く言う、「腹八分目」を意識するとよいと考えます。結局のところ、程々(ほどほど)が常に一番ということです。
もし、特にファスティングを行わないで健康を維持しようとした場合、必要なポイントは次の通りです。
- ①食べ過ぎず、腹八分目までにする。
- ②適度な運動を毎日、継続的に行う。
- ③無添加で体に負担が無いものをなるべく食べるようにする。
など、特別なことでなく、当たり前の配慮を少しずつ続けることで、体の健康を保っていけます。
なお、食品添加物については体が解毒(デトックス)してくれますが、腎臓などの器官には負担となります。
現代の食生活で食品添加物を完全に排除することは難しいですが、少しでも【無添加】や【オーガニック】の食品を摂ろうと意識するだけで、毎日のことですから、おのずと【体が健康になる、調子が良くなる】効果も出てくると考えてよいでしょう。
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